アレキサンドライト
Alexandrite

アレキサンドライト 6月の誕生石
原産地 インド、マダガスカル、タンザニア
緑色がかった青、青緑、深緑、すみれ色や深紅、赤紫、紫、オレンジに変化

属性 クリソベリル
硬度 8.50
屈折率 1.74 - 1.76
比重 3.70 - 3.78


ロシアでは「皇帝の宝石」と呼ばれ、様々に色を変えるアレキサンドライトは、実に奇跡のような宝石です。「昼のエメラルド」、「夜のルビー」と言われるアレキサンドライトは、日光の下では緑色がかった青から深緑に見え、ロウソクの火に照らされるとすみれ色や深紅、赤紫色、紫色、あるいはオレンジ色に見えます。希少価値があり、見事に色を変え、耐久性が高く、ダイアモンドのような輝きを持つアレキサンドライトは、ジュエリー通にとっては必須の宝石です。クリソベリルの珍しい変種であるアレキサンドライトは、タンザナイトやパパラチャサファイアと同等の価値があり、世界的に最も求められている宝石のひとつです。


伝説

1830年10月のある寒い朝、貧しい炭焼き人のマキシム・ステファノビッチ・コシェフニコフは、トコバヤ川沿いのシダレカンバの林を歩いていました。嵐で倒れた大きな木の根に足をとられたコシェフニコフは、緑色の美しい石を見つけました。その石はすぐにエメラルドと鑑定され、1831年には、このウラル山脈の鉱山で採掘が始まりました。

トコバヤのエメラルド鉱山では、ほかの宝石も産出されました。色を変える不思議な力を持つ新しい宝石もそのひとつでした。日光の下で見ると深い緑色なのに、ロウソクの火で見ると赤みがかっています。その宝石は、若き皇太子で1855年に王位につくことになる皇帝アレキサンドル二世にちなみ「アレキサンドライト」と名づけられました。アレキサンドライトが発見されたのはアレキサンドル二世の20歳の誕生日である1830年4月23日だったという説もあります。鉱山が発見された時期と宝石が名づけられた時期が逆であるため、アレキサンドライトの専門家でウクライナ人のヴィタリー・レペジ氏は、アレキサンドライトが実際に発見されたのは1834年4月3日に皇帝づきの有名な鉱物学者でフィンランド人のニルス・ノルデンショルドによるもので、正式にアレキサンドライトと呼ばれるようになったのは1842年以降だろうと話しています。

発見された正確な日付はさておき、この新しい宝石はセンセーションを巻き起こしました。だれもがアレキサンドライトを欲しがったのです。ところがもちろん鉱山労働者はおもしろくありません。アレキサンドライトのわずかな鉱脈を追ってペグマタイトを手で切り開いたり、露天掘りをしたり、小さなトンネルを掘ったりと、非常に原始的な方法で採掘しなくてはならなかったからです。長い冬のあいだ、刺すような寒さと目を開けていられないほどの吹雪の中で働くことを想像してみてください。そして、夏になっても決して楽ではありません。ブヨや蚊、アブの大群に襲われるに違いありません。アレキサンドライトが未来の皇帝の誕生日に発見されたという偶然は、この不思議な宝石が映し出す色がロシア帝国軍の色である赤と緑であることからも、大いにもてはやされました。帝国を二重に意味するアレキサンドライトは、瞬く間にロシアで人気を博し、幸運を呼ぶと信じられました。また、ふたつの色を持つことから、ロシアではアレキサンドライトのジュエリーをひとつだけ身につけると孤独になると言われました。


アレキサンドライトについて


宝石学では、色が変わるクリソベリルをすべてアレキサンドライトと呼びます。変化する色によって名称が異なるということはありません。アレキサンドライトの色の変化は純粋な光源によるものです(純粋な自然光から純粋な白熱光、例えば太陽光からロウソクの火など)。興味深いことに、色を変化させる性質はアレキサンドライトに限ったことではありません。サファイアやガーネットなど、色が変化する宝石は数多くあります。しかしアレキサンドライトが見せる色の変化の幅は、天然の宝石の中では突出しています。

エメラルド同様、アレキサンドライトには共通して含有物があります。含有物は宝石にとって決して欠陥ではなく、その宝石と地球との自然界における関係を示しています。人工のアレキサンドライトが普及していることを考えると、含有物はむしろ偽物と本物を見分ける美しい証拠とも言えるでしょう。アレキサンドライトを最も美しく見せるのは、おそらくイヤリングとペンダントでしょう。アレキサンドライトが色を変えながら揺れ動くのがよく分かるからです。指輪もまた人気があります。非常に硬い宝石で、ダイアモンドやルビー、サファイアに次ぐ硬度があるからです。アレキサンドライトは希少性があり、それぞれの結晶のカラットと美しさを最大限に生かすようにカットされるので、形や大きさが多様です。 美しく神秘的な光学的効果に魅せられて、アレキサンドライト・キャッツアイをのぞいてみると、表面に光の筋が見えます。

専門的には「シャトヤンシー(キャッツアイ効果)」と呼ばれるこの興味深い現象は、宝石の世界にだけ起こります。これは鉱物が光の筋を鏡のように反射しているのです。


美しいアレキサンドライトが採掘される鉱山はいくつかありますが、鑑定家のあいだではロシアのアレキサンドライトが伝統的に高く評価され、羨望の的となってきました。1898年、有名な宝石商であ るエドウィン・ストリーターは『貴石と宝石』の中で「素晴らしきアレキサンドライトは、昼のエメラルド、夜のアメジスト。その市場価値は非常に変動的で、質の良いものになると時に1カラット20ポンドにもなる」と書いています。現在、同じロシア産のアレキサンドライトには、何千万ポンドという値がついています。


トコバヤ鉱山は数十年で閉鎖されましたが、1995年頃に限定的ながら採掘が再開されたという噂があります。今のところ、ロシアでのアレキサンドライト採掘は非常に量が少なくなっています。2005年12月、「カラード・ストーン」誌は「未確認ではある が、この地域で新たな動きがあるようだ。しかし目立った量の製品はまだ市場には出てきていない」と報じました。ロシアは宝石の埋蔵量の多い国ですが、ソビエト連邦の崩壊以降、技術の遅れにより採掘は進んでいません。興味深いことに、有名なダイアモンド会社であるデ・ビアスとロシアの地質学者が、ロシアのダイアモンド埋蔵量を調査中で今後、副産物として新たなアレキサンドライトの鉱床が見つかるかもしれません。ロシア産のアレキサンドライトは非常に手に入りにくく、幸運にも所有することができた人は、まさに過ぎし時代の宝石の守り人と言えるでしょう。


インド南東部のアンドラプラデシュに住む部族の人が、アラク峡谷で最初のアレキサンドライトを見つけたのは1996年のことですが、それ以降、インド産のアレキサンドライトはロシア帝国と同じくらい波乱に富んだ歴史を歩んできました。必要性が声高に叫ばれた採掘規制が1999年に実施されたり、海岸沿いの鉱山が2004年の津波で崩壊したり と、インド産のアレキサンドライトの歴史はまさに山あり谷ありでした。


ジェムスTVが初めてご紹介したアレキサンドライトはグリーンアップルの色に輝き、オレンジ・ラズベリーからグレープまでの色の変化を見せるもので、インドのアンドラプラデシュ州ビシュナカハプトナム産でした。ジェムスTVでは、この美しい宝石を常に追い求め、最近になってロシア産を思わせるような豊かな色を持つアレキサンドライトを産出する鉱山と出会いました。現在、インド産のアレキサンドライトは主にナルシパトナムという、最初の発見地であるビシュナカハプトナムから100キロ内陸に入った鉱山から調達しています。このアレキサンドライトの特徴は、深い緑色と、鮮やかなアメジスト色からルビーの赤、そして赤紫といった驚くべき色の変化です。アレキサンドライトは何億年も前の古生代に形成され、発見場所であるロシアのウラル地方とインドのナルシパトナムのペグマタイトは同じものであると言われています。インドでの採掘は危険な作業で、鉱夫たちは命がけで30メートルの深さまでぬかるんだ泥を掘り、アレキサンドライトの小さなかたまりを含んだ岩を見つけ出すのです。


有名なブラジルのミナスジェライス州では、様々な宝石が100年以上にわたって採掘され世界中を魅了しているにもかかわらず、良質のアレキサンドライトは1987年に発見されただけです。ペグマタイトを含む多くの鉱山の例にもれず、ブラジルのアレキサンドライトは、近寄るのが困難な起伏の激しい場所で発見されています。採掘方法は原始的な手掘りが主流です。例外はヘマティティアの鉱山ですが、残念ながらその美しいアレキサンドライトは枯渇してしまいました。ブラジル産のアレキサンドライトの多くは含有物が多いか半透明かのどちらかですが、少量ながら質の良いものも採掘されています。2004年、ブラジルで新たなアレキサンドライトの鉱脈が発見され、青緑色で魅力的なラズベリー色に変化するアレキサンドライトが出ています。


マダガスカルやタンザニア、モザンビークの 鉱山でも、ここ数年、良質のアレキサ ンドライトを生産しています。アフリカ産のアレキサンドライトは川のそばなどの湿った土地にあるのが特徴で、手で川床を掘り、アレキサンドライトを多く含むペグマタイトを取り出すという方法で採掘されます。およそ90年のあいだ、アレキサンドライトの産地はロシアとスリランカに限られていました。多くの鉱山ではペグマタイトからアレキサンドライトを取り出すのに対し、スリランカでは沖積した土砂から取り出されるアレキサンドライトは、日光の下では上品なサファイアのような緑色に輝き、白熱光の下では赤紫のスピネルに似たオダマキのような赤に変わるのが特徴です。